お嬢様になりました。

「葵」



お祖父ちゃんに名前を呼ばれ、不自然な程肩が飛び跳ねた。



「は、はいっ」



海堂に机の下で手をそっと握りしめられ、私の動揺はピタッと止み、今度は緊張に襲われた。


て、て、手が……っ。


どういうつもり!?



「勿論お前もこの婚約を望んでおるのだな?」



お祖父ちゃんの言葉に心臓がざわつき始める。


落ち着け。


とにかく落ち着け、私。



「う、うん。 勿論だよ」



それが精一杯の言葉だった。


これ以上口を開けば間違いなくやらかす自信があった。


この場は極力海堂に任せよう。



「そうか。 それならワシは何も言わぬ。 葵が幸せならそれでよい」



お祖父ちゃん……。


お祖父ちゃんの深い目尻の皺、クッキリと見える豊麗線。


胸が痛んだ。


こんなに嬉しそうな顔をしてくれているお祖父ちゃんを私は騙してる。


私はグッとTシャツの裾を握りしめ、口角を上げた。



「ありがとう、お祖父ちゃん」



そしてごめんなさい……。



「本日は突然お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした。 後日改めて父とご挨拶に伺わせて頂きます」

「あぁ、そうじゃな。 すまんがワシは用事があるんでな、ここで失礼させてもらう。 君はゆっくりしていくといい」

「はい。 ではお言葉に甘えてそうさせて頂きます。 お忙しい中お時間を割いて頂き、ありがとうございました」