桐生のまさかの突っ込んだ質問に焦る俺。

確かにさっき……

『桐生も何かあった?
良いこと』

……って言ったな、俺。


うわ~……どうしよ、どうしよ!


俺はさっきより顔の赤みが引いた桐生を見た。

……でも、今度は俺の顔の火照りが半端ない。


「お、俺は……」


言えない!

絶対に言えないっす!!


「西丘君……?」


一人焦る俺を桐生が不思議そうに見つめる。


うわっ……そんな目で見られたら……俺……


……不思議と、桐生の目を見ていると……何だかボーッとしてきて……


「俺……」


口が……勝手に動く。


……俺がじっと桐生の目を見つめると、桐生もそれにつられるようにしてまっすぐ俺の目を見つめる……。


人通りのない廊下にある数学準備室は本当に静まり返っていて……


ただ、俺達の小さな息遣いが聞こえるだけだった……。


「俺……桐生が……」


そんな雰囲気に押されるようにして、俺が口を開いた……その時。


「うぃーっす……」


扉を開ける音と共に……この雰囲気には似つかわしい、かったるそうな低い声が聞こえてきた。