「きーたん、行ってらっしゃい」


「……」


 じっと見つめる目に根負けし、仕方なくエアコンをつけ、キッチンに向かう。


 彼は私を“きーたん”と呼ぶ。幼い頃からの私のあだ名だ。


 麦茶を注ぎ終えて足元に目をやれば、そこには一匹の猫がいた。


 この猫は、いつだったか私が拾ってきた猫だ。猫の名は“社長”という。これは、要ちゃんが命名した。


 彼いわく、社長は“社長らしさ”があるらしい。全く、彼の考えることは理解できない。


「社長、今日も可愛いですねー」


 頭を撫でると社長は目を細めて、のどを鳴らした。


 何とも言えない幸福感に浸っていると、私を呼ぶ彼の声がした。


「きーたん、おいでー」