母の浮気はきっと父さんが残業でいないことからくる寂しさが一番大きかったのだと思う。


 だからと言って、それをどうこう言うわけでもないし、私の問題ではないので何も言わない。


 くるくると、ココアパウダーと牛乳を混ぜ合わせながら、父さんのどっと疲れたような背中を見ていた。


 そして、ココアに砂糖を入れた。


「父さん、これあげる。飲みかけだけど」


「ん……? あぁ、ありがとう」


 笑顔になった父さんに手渡したのは、ココア。私は砂糖を多めに入れたココアが好きだった。


 このココアの砂糖を少なくしたのも、飲みかけではないのに飲みかけと言った理由も、私にはわからない。


 でも私はきっと、父さんのことを要ちゃんと社長の次くらいに大切に思っているのかもしれないと思った。


「私もう寝る。おやすみ」


「おやすみ」


 飲み口にココアのついていない、ほのかに甘いココアを飲んでもう一度「ありがとう」と彼女の父親は呟いた。