「私は要ちゃんと社長がいればいいよ。生活は保障してもらうけどね」
呟いた言葉は、車のエンジンにかき消された。
__その夜。
何故だか寝付けずにいた私は、ココアを飲もうと思い、キッチンに向かった。
牛乳を注いでいると、玄関の開く音がして、父さんが残業を終えて帰ってきた。
「お帰り、父さん」
「あぁ、ただいま。珍しいな、起きているなんて」
「うん。今日は何故かね」
「あれ……美代は……あぁ、出張と言っていたな」
美代とは、私の母、つまり父さんにとっては妻の名前だ。
出張ねぇ……。本当にそう信じているのだろうか。そうだとしたら、父さんが不憫でならない。

