「華、愛してる。
俺達は空気のような夫婦になろう…華。」

寝室で愛し合った後竹君さんが私の身体を抱き寄せ耳元に息を吹きかけるように囁いた。

「空気ですか?
何か微妙です。竹君さん」

口を尖らせながら竹君さんの顔を見上げた。

「ふふ…微妙か?
人は空気がなくては生きて行けないぞ」


その時、諭すように私の頭を撫でる竹君さんの口元が微かに右に上がっていたのを私は気づいていなかった。








『〜……〜〜〜…〜…〜〜〜……
〜〜………〜〜〜……〜〜……』
多勢のお坊さんがお経をあげている。


ーー痛ぅぅ〜〜…脚が痺れて立てない!
畳の上に正座するなんていつ以来だろ。
それもこんなに長く。

膝から下に感覚が無くなってる。
どうしよう。私の順番まわって来ちゃう‼︎ーー

数珠を持っていない右手で脚をさすっていると感覚が戻ると同時にあの『じんじん、ぴりぴり感』に襲われた。

『………。』
奥歯を噛み締め、この異常知覚症状の峠が過ぎるのをひたすら待った。

さらにこの苦痛が周りの人達に悟られないように平静を装わなければならなかった。

鉄仮面な人達に。

「まもなく若御台さまの番でごさいます」
後ろに座っている人に耳元で囁かれた。

私も脚の痺れをおくびにも出さず鉄仮面表情で静かに頷いた。

若御台さま……。

今日は私の曽祖父で竹君さんの祖父である『徳川家康の法事』。

家族そして平松家に仕えてくれている主だった人達が勢揃いしてる。

もちろん、男性は丁髷、女性は日本髪を
結って真っ白な正絹の着物を着ている。


ーー辛い…この完全アウェーな雰囲気!
これは何かの罰ゲームですか?
そして一番辛いのは竹君さんの私への態度!
素っ気ないどころか完全無視です。
私の存在が竹君さん《上様》の中に全くないんです‼︎‼︎。ーー

まるで私は空気です………。

空気?えっ?

まさか…空気のような夫婦てこの事なの⁉︎

やられた‼︎ーー

すっかり鉄仮面若御台に成りきる事を忘れころころと表情を変える華を竹君が口元を緩め嬉しそうに見ていた事も気づいていなかった。