リアル

 何もしなくても時間は経つ、目を開けると外はもう紫色だった。帰ってきたのは昼過ぎだったのに。
 俺は何時間頭の中でサトシを殺し続けていたのだろうか?
 最低だな俺は、なんで何年も友達やってる奴が死ぬ事ばかり考えているんだ。なんで三ヶ月前みたいに元気過ぎるあいつとまた一緒にバカできることを考えられないんだろう?
 下から母さんの声が聞こえる。
「ヒロー、御飯ー」
 その声は確かに聞こえた。けど、動けない。
 何かを食べる気分じゃないのは確かだけど、腹が減ってないわけじゃない。もう丸二日何も食べていない。
 腹が減らないわけがない、俺は起きて動いているのだから。
 俺がサトシを心配しながら飯を食っても食わなくても、何かが変わるわけじゃない。だけどなぜかサトシに悪い気がした。俺が飯を食う事に、普通に生活する事に罪悪感を感じてしまう。
 階段を登ってくる足音が聞こえた。
 俺はこれから開くであろう扉をジッと見つめる。
「御飯って言いよるやろ、あんたまた食べん気やないやろうねー」
 母さんは扉を開けると同時に言った。声は朝よりも強かったけれど、同じ顔で。この人は間違いなく俺のことを心配している、まだ起きないサトシのことよりも、そんな友達を持った俺のことを。
「食べるよ」
 ゆっくりと立ち上がる俺を見て少し安心した顔で階段を降りていった母さんの後を追う。サトシに対するなんの意味も持たない罪悪感を払拭するように頭を振る。
 居間に入った瞬間、思わず嗚咽を上げて泣きそうになった。