もしかしたら、秋菜の知らないところで豪太を奪われていた瞬間があったのかもしれない。
ーーやめて、そんなのいやだ…絶対…!
考えただけで秋菜の胸は息苦しくなる。
秋菜にとって唯一無二の人。
この世でただ一人だけ、かけがえのない存在。
…それは豪太以外にはいない。
駐車場から戻った秋菜は、部屋でオムツのパッケージを開けて、中身を取りだし、ママバッグに詰めていた。
「おかえり。外、暑いでしょう」
由紀恵が部屋に入ってきた。
「柊は?」と秋菜が聞くと、
「テレビ観てるわよ」と由紀恵が答えた。
「秋菜ちゃん…」
由紀恵は、膝を崩して座る秋菜の隣に正座した。
「秋菜ちゃんが出掛けている間、豪太君からママの電話に連絡があったのよ」
「へえ…なんて?」
秋菜は素っ気なく訊いた。
「迷惑掛けてごめんなさいって。
今日、仕事が終わったら遅くなるけど、こっちに迎えに来るって」
ごめんなさい………豪太は滅多にその言葉を言わないのに。
意外だった。
豪太に縋り付きたい気持ちと拒否したい気持ち。複雑だった。
自分がどうしたいのかわからなかった。
「ん……」
秋菜が俯いていると、由紀恵は急に神妙な口調で言い出した。
「…あのね。実はママ、秋菜ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの」
「……何?」
嫌な予感がした。
由紀恵は、頭を振った。
ふわりと栗色のウェーブの髪が揺れる。
「…やっぱり、いいわ。
豪太君にも聴いてもらいたいから、夜、豪太君が来てから話す」
含みのある言い方をされて、秋菜は落ち着かなかった。
「なに?仕事でもするの?」
当てずっぽうに言ってみる。
由紀恵は少し照れたように笑うと、長いまつ毛の目を伏せた。
「そんな事じゃないわ。
ママ、先月、島田さんと結婚したの。
入籍したのよ」
「ええっ!」