『離れたくないよお……
ずっと一緒にいたいよ…』
目と鼻を真っ赤にして。
豪太は少し困った顔をしながらも、秋菜の頬を優しく撫でてくれた。
そんな生活は二年ほど続き、20歳になった豪太は、秋菜の夢を叶えてくれた。
清水の店を辞め、フレンチに転向した豪太は秋菜を妻として娶り、この地に居を構えた。
豪太は柊が生まれてから、持ち家を欲しがるようになった。
養護施設で育った者は、自分の子供は自分の城で育てたい、と願う気持ちが強くなるのかもしれない。
『俺たちには、なんの後ろ盾もないんだから、働ける時に働いて稼いでおかないと』
豪太のこの考えには、秋菜も賛成だ。
『頭金さえあれば、ローンが組めて俺たちだって家が持てるよ』
豪太は、近くにある分譲団地を指していった。
そこは小高い丘の上にある大きな団地で築30年の物件だけれど、緑が多くゆったりとしていた。
近くに遊具のある公園や運動場もある。
古いのと少々交通の便が悪いので、3LDKという広さの割には、おトク感があった。
結婚してから基本的には、共働きだった。
ドラックストアや本屋の店員。
柊がお腹に宿る前の五年間は『エアリー』という洋服屋で働いていた。
秋菜好みのフリルや花柄を使った甘い雰囲気の洋服がメインのショップだ。
契約社員だったけれど、後半の二年間は、店長も務めた。
シフトを作り、新人の教育を任され、とてもやり甲斐があった。
辞めてしまったのは、柊がお腹に出来たからだ。
また働くなら、そんな店がいいと思っていた。
前の店長に頼めば、パートとして系列店での仕事を紹介してくれるかもしれない。
………問題はただひとつ。
柊の預け先だった。

