けれど、たまに仕事で嫌なことがあった時など、決まりを破ることがあった。
それは秋菜も寛容に受け止めていたつもりなのに。
秋菜の言葉に咎められていると感じたのか、豪太は一瞬バツの悪い顔をする。
「なんだよ。いいじゃんか!
たまには普通の日に飲んだって!」
怒ったように言うと、くるりと秋菜に背を向けた。
ーーー別に責めてなんかいないのに…
秋菜は呆気に取られた。
「何も言ってないじゃない!
飲んでるの?って訊いただけなのに!」
秋菜は、頬を膨らませる。
豪太の脇を足早に通りすぎ、柊の寝ている部屋へと入った。
最近、すれ違っている気がする…
二人で風呂に入っていても、豪太は秋菜の身体に触れようともしない。
まるで幼い兄妹みたいだ。
昔はこんなんじゃなかった……
布団の中で秋菜は思う。
高校生の時、すごく仲が良かった。
3年間、毎朝、公園で待ち合わせして、一緒に登校していた。
たいがい、豪太は先に待っていて、
秋菜の顔を見ると満面の笑みで
「秋菜、おはよう」と言ってくれた。
休み時間も放課後もずっと一緒にいた。
ひと目なんか気にしなかった。
磁石みたいだねってみんなに言われていた。
いつも手をつないで歩いていた。
洋服屋のアルバイトと豪太とのデートに明け暮れた青春時代。
結婚してからも、お互いをいつも想い合っていた。
すれ違うようになったのは、柊が生まれてからだ。
秋菜は隣の布団で寝ている豪太を見る。
豪太はとっくに寝ていた。
少しだけ口を開けて。
厚めの唇の間から、軽いいびきがもれていた。
そんなところが可愛かった。
ベビーベッドの柊は、バンザイをするポーズで寝ているはずだ。
なぜか柊は生まれた時からずっとそんな格好で寝る。
暗い六畳間にまるで避難するみたいに親子三人が寄り添って寝ている。
これが『幸せ』ということなんだとわかってはいるけれど、つい昔を思い返してしまう。

