実害はなかったけれど、少年の行為は秋菜を深く傷付けた。

自分が汚らわしく思えた。


誰にも言わずに忘れようと思ったけれど、我慢しきれなかった。



夜、仕事から帰ってきた母・由紀恵の顔を見た途端、秋菜の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。

母の胸に縋って全てを打ち明け、思い切り泣いた。


『ごめんね……』


由紀恵も涙を流して秋菜を抱きしめた。






母・由紀恵が選んだ解決法は、引っ越しと転校だった。


島田と別れることはしなかった。





新しい引越し先の街で、由紀恵は秋菜をペットショップに誘った。

新しいインコを買ってあげるつもりだった。


『いらない』

秋菜は言った。


愛しいものと、悲しい別れをするのはもう絶対に嫌だったから。
でも、そんなことを言えば、由紀恵は辛い気持ちになるだろう。
言えなかった。


『お世話するの面倒臭いんだもん』


由紀恵は、見るだけでも、と秋菜の腕を引いた。

ペットショップには、たくさんの鳥たちがいた。



『可愛いわねえ』


幾つものゲージに入れられた美しい鳴き声のカナリヤや可愛らしいインコ達の姿に、由紀恵は目を細める。


欲しくない、と反発したかったのに、まだ羽根の生え揃っていない白いオカメインコのヒナが入ったショーケースを見つけた途端、秋菜の目は釘付けになった。


(…ピッピみたい。可愛いい。
どうしよう……欲しいな)


心が揺らいだ。

欲しいと言えば、母は買ってくれるだろう。


ふと。

頭の中に無残に鳥籠で死んだピッピの残像が蘇ってきた。

胸がぐっと詰まった。


(やっぱりいらない……)


秋菜がショーケースから身体を離したその時、店の奥から、女の子の大きな笑い声が聞こえてきた。


秋菜が声の方を見ると、同い年くらいの三つ編みをした女の子が、犬猫のいるショウケースの前で、仔犬の黒いトイプードルを抱っこしていた。