慶は、何も言わない。
葵は、何がなんだかわからないから不思議そうな顔をしている。

「じゃ、行こうか」
私達3人は無言で歩き出した。
慶と私が揃って歩くと、威圧感が凄いのか、3階の廊下には人1人いなくなっていた。

――カラカラ
病室のドアを開けると、いつもと同じように機械をつけて寝ている兄ちゃん。

私は兄ちゃんのそばにあった椅子に座った。
慶は壁にかけてあったパイプ椅子を2つ出し、葵を座らせて自分も座った。

「兄ちゃん、人‥連れてきたよ」
そっと頬に触れるけど、ピクリとも動かない。

「池沢葵ってゆうの。
兄ちゃんの役割‥してくれたんだ」
笑ってみたけど、ちゃんと笑えてたかな。

慶と葵は、ただ黙って私と兄ちゃんを見ていた。

「‥はやく‥はやく起きてよ」
自然とこぼれ落ちる涙。

最近泣いてばかりいる。
こんなの、私らしくないのにね。

「椿」
慶は私の肩に手を置いて、優しく私の名前を呼んだ。
私はベッドのシーツをギュッと握って兄ちゃんを見る。
「なんで‥なんで起きないのさ!!!」
ベッドを叩く。
病室にドンッと少し大きめの音が響いた。

「椿‥やめろ」
優しく私の頬を撫でて涙を拭く慶。

「‥ごめん。
兄ちゃんと‥2人にしてほしい」
「わかった。 葵」
慶は葵を連れて病室を出た。
ドアの前に慶と葵はいるのだろう。
気配がする。