「兄ちゃんと父さんの前だけだもん。
表情見せたり、感情を見せたりするの。」
「へぇ」
まだ笑っている兄ちゃん。

「うちだってビックリだからね、兄ちゃんが鋭い目をもつ男って言われてるの。」
「警戒心のあらわれ、だと思うけど。」
「だろうね。
あー、どうすんの?
慶のご飯」

慶を一瞬見て、また兄ちゃんに戻す。

「俺、作ってくるよ」
「女である私が作るよ」
うん、当たり前だよね。
「ばーか。
椿料理出来ねーじゃん。」
そ、そうだった。
「じゃ、兄ちゃんお願い」
「おう」

兄ちゃんは優しく微笑んで部屋を出て行った。

慶を見ると、
「何あほずらしてんの。」
無表情で慶を見下ろす。
「あ、いや。」

床に座って、壁に背をあずける。
ガラステーブルのまわりには8本のカンカン。
全て酒だ。
ガラステーブルの上には2本のカンカン。
さっきまで飲んでたやつだ。
兄ちゃんのカンカンは空だった。

私は自分が飲んでたカンカンを持って飲み干す。

「あんた、高校生だろ?
酒、いいのかよ」
「細かいね、あんた。
ポリにばれなきゃいいんだよ」
慶って男を睨みつける。