【中編】桜咲く季節に

株式会社 山崎 は建設関係の会社で、営業といっても全く畑違いである。

戸惑いはあったが、調べてみると山崎氏はなかなか徳が高い人物らしく、社員からの人望も厚いらしい。

思い切って面接を受けた翔は、どこか亡き父の面影を感じる山崎社長の人柄に好意を持った。

豪快で人当たりのよい笑顔と巧みな語りに、翔はいつしか心を開き、母親の病の事まで話していた。

噂どおりの人柄であることを実感した翔は、自らこの人の下で働きたいと、心を決めたのだった。

そして…今日が初出勤の日。

どんな大きな商談の前にも心に余裕は残していたはずの翔が、今回ばかりは信じられないほど緊張していた。

それは、自分に対して期待を寄せてくれる山崎社長を裏切れないという気持ちと、紹介してくれた高端氏の顔に泥を塗るようなことは出来ないというプレッシャーから来るものだった。