翔が差し出すハンカチを受取り、涙を拭くさくらの気持ちはとても複雑だった。
家族として大切にしてくれる翔の気持ちが嬉しかった。
だが同時に『保護者として』という言葉に傷ついている自分に気がついた。
家族として、兄として、自分を大切にしてくれる翔。
嬉しいはずの言葉なのに、溢れる涙で翔の姿が霞んだ。
「迷惑だなんて絶対に思うな。
出て行くだなんて絶対に言うな。
お前は俺の大切な…妹なんだから」
胸が痛くて、声が詰まった。
「……ありがとう…翔お兄さん」
ようやく搾り出した声は、喉が詰まって掠れていた。
溢れ出る涙の意味を問われたくなくて俯くと、サラリと長い髪が顔に掛かり表情を隠した。
出逢った春には肩までしかなかった髪は、気が付けば随分長くなっていた。
いつの間にか伸びた髪。
その長さに翔と重ねてきた時間を感じる。
その瞬間、さくらは気が付いた。
胸の内に密やかに芽生えていた想いに。
そしてそれが、確実に芽吹き始めている事に。



