【中編】桜咲く季節に


「いいじゃないかドジで。
次から次へとハプニングを起こしてくれて、毎日が楽しいよ」

「褒めていないわ」

「褒めてるよ。さくらが来てからおふくろが毎日すごく楽しそうなんだ。
もちろん俺も楽しいけど…おふくろさ、ここ数年ずっと病気で気持ちが塞ぎ込んでて、元気がなかったんだ。
すごく明るくて活発な人だったのに、笑わなくなって外にも出かけなくなった。
そんなだから気持ちが病気に負けてしまって、悪くなる一方だったんだ。
さくらが来るまでは」

「…そんな…お母さんの病気がそんなに重いなんて初耳だわ。
いつも明るく笑ってて、そんな素振り見せたことないし」

「それはお前のおかげだよ。
さくらが来てからおふくろは、良く喋って、良く笑う、世話好きだった昔のあの人に戻ったんだ。感謝しているよ」

「あたしは何もしていないわ」

「さくらは居てくれるだけでいいんだ。
それだけで俺は…いや、俺たちは笑顔になれる。
家の中が明るくなって幸せな気持ちになれるんだ。
まぁ、自立を考えるのは良いことだから、仕事をすることは反対しないけどさ。
でもお前どんな仕事を考えて…って、ええっ? おまっ…何だよ、この折り目は! 水商売って…はあぁっ?」

「あぁ、これは学歴不問でアパート完備とあったので、話だけでもと聞いてみようと思って…」

「アパートって…まさかお前、家を出るつもりか?」

 翔の剣幕にさくらは一瞬声を失った。

 これまでどんなに迷惑を掛けても怒ったことの無かった翔が怒りを含んだ表情でさくらを見つめていた。