【中編】桜咲く季節に


「仕事を探しているのか?」

「ええ…昨日もまた掃除機を壊してしまったでしょう。
今朝のチラシで見て、掃除機って何万円もするって知ったの。
あたしのせいでこの半年で2台目なんて…ごめんなさい」

「そんなに高いやつじゃなかったし気にするなよ。
しっかし、昨日のあれは笑えたよな。
部屋の中で消火器ぶちまけるってありえねぇし」

「だって、いざって時にちゃんと使えるようになっておけって翔が言ったでしょう。
だから説明どおりにピンを抜いてレバーを引いたら、突然ブワーッって中身が…」

「そりゃそうだ。普通は実際に火事になった時以外は実行には移さないもんなの」

「火事になってから説明読んで実行に移していたら遅いじゃない。
それにちゃんと機能しなかったらどうするの?
練習は必要でしょう?」

「ブッ…ククク。お前サイコーだわ」

「あーまた、思い出し笑いしてる。もぉ~」

「おふくろが送ってきた写メ見てビックリしたぜ。
部屋中ピンクの粉だらけだったもんなぁ。
俺が帰ったときには随分綺麗になってたけど、あれは大変だったろ?」

「ん…消火器の粉は掃除機で吸っちゃダメって事、知らなくて…壊れちゃった」

「あのさ、普通は部屋中が粉だらけになったら、誰でも掃除機で吸い取ろうとするさ。
粒子が細かすぎて掃除機が壊れちまうなんて事、知ってるヤツのほうが少ないってぇの。
だから気にすんなって」

「でも今日だって病院の費用を出してもらっているのに…
あたしの失敗で翔に無駄な出費ばかりさせているわ」

「俺がさくらを引き取るって決めたんだし、病院の費用は保護者としては当然だろ? 掃除機の事は一つ勉強になったんだから良いじゃねぇか」

「でも…」

「さくらが一生懸命やっているのは解っている。
だから失敗しても俺達は笑っていられるんだ」