【中編】桜咲く季節に


「さくら、こんなところでどうした? 今日は病院だったんだろ?」

「翔こそ、まだお仕事の時間ではなくて?」

「あーまた、お前はそんな固い口調で…」

「あ…えーと、まだお仕事の時間じゃないの?」

「……70点」

「…翔…厳しいわ」

「ったく、こんだけ毎日特訓してるのに…学習能力が低い生徒だなぁ」

「でも翔って呼び捨てにできるようになりま…なったわ」

「今、『なりましたわ』って言いそうになった?」

「なっていません」

「敬語」

「なってな…いもん」

「ん~65点。名前は当然だろ。
つうか、半年も一緒に暮らしているのに、改善されたのは名前だけってのもどうかと思うぜ?」

「でも話し方も随分良くなったでしょう?」

「まだまだだ。もっとスパルタ方式でいかなきゃダメなのかな?
罰則でも考えるか?」

「…翔って優しいと思っていたけど、本当は意地悪なのね?」

ムゥと唇を尖らせ呟くと、翔は面白そうにクスクスと笑った。

「その顔サイコー笑える」

「イジワル」

「他人には基本的に優しいぞ、俺は」

「じゃあ、あたしは?」

「さくらは身内だから意地悪でいいの。
なぁ、それよりお前、昼飯食った? 俺まだなんだ」

 翔は手にしたコンビニの袋を掲げるようにして見せ、ニッと笑うと、返事を待たず隣に座った。