翔の気配を感じ振り返ったさくらは、涙目で笑う翔の様子に自分がまたおかしなことをしてしまったらしいと悟り、恥ずかしさに染まった頬を両手で隠した。

 その仕草が愛らしくて、触れたくなる衝動を抑え切れなくなるのを、親鳥ゆえの感情だと自分に言い聞かせ
「本当に、ビックリ箱みたいなヤツだなぁ」
と子供を褒めるようにクシャッと頭を撫でた。

 全く読めない奇想天外の行動に苦笑する翔だが、思いっきり本気のさくらはキョトンとしている。

どんなに心配しても、この雛は思いもよらない行動と型破りな発想で物事を解決してしまうのだから、流石の親鳥も振り回されっぱなしだった。

柔らかな髪を通して、さくらの体温が手のひらに伝わると、じんわりと嬉しいような、苦しいような、切ないような…複雑な感情が込み上げてくる。
と、同時にドクンと大きく脈打った鼓動が、トクトクと少し早めのリズムを刻み始めた。


二人の鼓動が同じ速度で少し早めのリズムを刻む。


夏の気配を感じる風が、言葉も無く見つめ合う二人の間を涼やかに吹き抜ける。


フワリとゆれるカーテンが時を一瞬だけ止めた気がした。


出逢いから三ヶ月。


翔は自分の中に確実に芽生え始めている感情に薄々気付きならも、未だ目を逸らし続けていた。