【中編】桜咲く季節に


醤油とソース、砂糖と塩の区別がつかないなどは序の口だ。

風呂場を掃除させれば、風呂の水を掃除機で吸い上げてぶっ壊す。

ボタンを付けさせれば、一つに1時間以上掛かり、指は絆創膏だらけ。

米を磨いで炊くという常識をインプットされていなかった為、初めての炊飯は糠風味抜群の一品で、その時作ったカレーライスは、カレールーを使えば不味いカレーなど絶対に出来ないという、翔の常識を覆すものとなった。

更に、食器を洗わせれば確実に皿をジグゾーパズル仕上げにしてくれる。しかも、たった数枚の皿を洗うにも果てしなく時間がかかり、洗剤と流れる水道量を考えると、エコ活動が叫ばれる世の中に逆行しているとしか思えない。

毎日次々と起こる珍事の数々に、もはや『呆れる』という言葉は翔の辞書から消え去ろうとしていた。

不器用ながらも一生懸命なのは分かるが、記憶が戻ってもこれでは嫁の貰い手はないだろう。と、親鳥としては益々心配要素は膨らむ一方だ。

せめて記憶喪失で常識も消え去ったのであってくれれば…と記憶が戻ると同時に常識も戻ることを密かに願うのだった。

だがそんな親鳥の願いも知らず、雛は次々と新たなハプニングを起こしてくれる。

そんな中、その出来事は、翔が生涯忘れられない人生で指折りの『さくらの爆笑エピソード』となった。