【中編】桜咲く季節に

翔に左遷同様の県外への移動命令を出し、更に翔の取った仕事を馬鹿息子に任せたのだ。

病床の母を一人置いて行くなど出来るはずも無い事を承知の上での移動命令に、流石に翔も我慢の限界だった。

朝礼で翔の決めた商談を、自分の横に立つ跡取りの仕事であるように誇らしげに話す社長に歩み寄ると、その面前で息子の顔に辞表を叩きつけた。

確かに冷静さを欠いていたかもしれない。

だが、その後も、翔のことを根に持ち、退職金を馬鹿息子の治療費だと言い支払いを拒否する悪質さには反吐が出る。

この男の下で働いていた2年を記憶から抹殺したいほどに後悔していた。

上に立つものが腐りきった会社など、やがては組織全体に腐敗が広がり廃退するだろう。

そんな組織に染まりたくなかった翔は、その後の就職活動にかなり慎重になった。