記憶が戻らないのならば退院後は一緒に暮らしてはどうかとまで言い出した時には流石に驚いたが、昔から困っている人を突然家に連れてきたり、しょっちゅう捨て猫や捨て犬を拾ってきては父を困らせていた母らしいと、久しぶりに悪いビョーキが出たのはある意味回復した証拠だと嬉しく思う部分もある。
もちろんさくらの事は心配ではあったし、彼女の今後は見守ってゆきたいとは思っていた。
だが、さくらは犬猫ではなく人間である。
拾ってくる感覚でつれてくることは躊躇われたし、母親がさくらに抱いているだろうある感情にも複雑な思いを持っていた。
翔には17歳の若さで交通事故でこの世を去った4歳違いの姉、梓(あずさ)がいた。
交通事故で記憶も無く身寄りの無いさくらを娘に重ねているのだろうと思うと、すぐには賛成できなかったのだ。
だが、さくらとの生活が心の支えとなり、母の生きようとする力が病の回復を促してくれる事に望みを賭けたいと、その願いを受け入れることにしたのだった。



