【中編】桜咲く季節に


かつてはクリーム色だったと思われる古びた鉄のドアは所々錆び、色もグレーに近くなっていたが、綺麗に飾り付けられた手作りのウェルカムプレートとリースからは、住人の温かな人柄が感じられる。

緊張の面持ちでドアの前に立つさくらの肩をポンと叩き「きっとおふくろが待ちくたびれているぜ。朝からさくらが来るのを首を長くして待っていたからなぁ」と笑うと、ホッとしたように笑みを返した。

親を見つけた子供のような表情(かお)に、やはり自分は親鳥だと思わず苦笑してしまった。

「俺の事、兄貴だと思って何でも相談しろよ? 俺達は家族なんだから」

「はい、よろしくお願い致します。お兄様」

「ブッ!お兄様? 止めてくれよガラじゃねぇって。
翔でいいよ。翔さんってのも、どうも堅苦しくて苦手だ」

「…翔? 殿方を呼び捨てにするなんて失礼ですわ」

「殿方って…お前いつの時代の人間だよ?」

「いつのって…年号ですか?そのくらいなら記憶が無くても分かります」

「いや、そういう意味じゃなくて…。
はぁ…まずその堅苦しい言葉使いをなんとかしねぇとな。
それに自販機の使い方も知らないような常識じゃ、自立どころか安心して一人で外も歩かせられねぇし…。
明日から徹底的に教育するから覚悟しておけよ」

「教育? 自立の為のお勉強をするのですね。解りましたわ。わたくし頑張ります」