【中編】桜咲く季節に

自動販売機で千円札も使える事を学び、お金を入れてボタンを押しジュースを取り出す一連の動作をひたすら繰り返したさくらが満足した頃、気がつけば翔は種類の違う12本の缶ジュースを両手いっぱいに抱えていた。

「買いすぎましたか?」と問いながら後をついて来るさくらに「冷蔵庫が賑やかになって良いさ」と笑いながら錆びた外付け階段へと向かう。

昨夜の雨の名残で出来た水溜りを避け、後に続くさくらに跳ねが上がらないように注意しながらゆっくりと階段を上った。

「古いけど建物はしっかりしているし、駅まで10分ほどだ。
近くに大型のショッピングセンターもあって高端院長の病院へも歩いていける距離だろう?
車を運転できない俺の母親には凄くいい場所なんだ。
そうだ、あとで少し洋服を買いに行こう」

「洋服…ですか?」

「だって、いつまでもその服だけじゃ困るだろ?
俺のは着られそうにないしな。
俺のおふくろの服じゃ…やっぱりあんまりだよなぁ?」

「お気遣いありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしてしまって…」

「迷惑なんかじゃないって。
俺がお前の世話をしてやりたいと思ったんだから変な気を使うなよ?
ああ、そうだ。この少し先の公園の入り口にはジュースの自動販売機だけじゃなく、ハンバーガーやクレープの自動販売機もあるんだ。買い物に行く時にでも見てみないか?」