【中編】桜咲く季節に


その日から毎日、翔は仕事が終わると病院へ足を運ぶようになった。

病院の駐車場から病室を見上げると、いつものように彼女はそこに佇んでいた。

その瞳には桜の花以外は何も映っていない。

視界に翔の姿を留めている事すら、気付いていないようだった。

彼女は毎日、窓の外の桜が舞う風景をただひたすら見つめている。

何を語るでもなく、表情を変えるでもなく、折れた左腕に右手を添えて窓の外を見つめ続けるその姿は、まるで桜が散らぬようにと祈りを捧げているようにも見える。

彼女が心に大きな傷を負っていることは、誰が見ても明らかだった。