【中編】桜咲く季節に

再び病院へと戻ってきたのは、夕陽が西の彼方に傾き大きくその輪郭をにじませている頃だった。

彼女が運ばれた【高端総合内科クリニック】は、この辺りでは有名な病院だ。

一般内科のほかに、循環器科、神経内科、小児科、心療内科、外科、脳神経外科、胃腸科があり、大学病院並みの高度な医療機器を備えている事や、院長が国内でもトップレベルの心臓外科手術の腕を持っていることでも有名だ。

院長の高端英輝が翔の父親の友人だったこともあり、ここ数年体調の優れない翔の母の美羽(みはね)も、ずっとここに通院していた。


病棟のエレベーターの前でちょうど高端院長に声をかけられ、翔は彼女がまだ目覚めていないことを知らされた。

頭を打っている事を心配したが、検査の結果は特に異常は見られず、左腕の骨折以外に大きな怪我は無いとのことだった。