【中編】桜咲く季節に


警察へ向かう間も

事故の状況を話している間も

何度も今朝の情景が浮かんでは消えていった。


舞い上がった花びら


儚く微笑み意識を失った桜の精


意識を失う直前の『帰さないで』という悲痛な声が何度も耳に木霊して離れない。

彼女の家族は、今ごろ事故の連絡を受けているのだろうか。

彼女を迎えに病院へ来ているのではないかと思うと胸が痛い。

『約束する…』と言ったのに…ごめんな…

自分に彼女との約束を守る権限など無い事に、翔は空しさを感じずにはいられなかった。