【中編】桜咲く季節に

「轢かれた女の人は跳ね上げられて、ちょうどお前の腕の中に落ちてきたと野次馬が騒いでいたぞ。本当なのか？」

「あ…まあ、俺の近くに跳ね上げられてきたんで、無意識に抱きとめたって言うか…」

「まあ、どっちにしても驚いただろう？
事故現場を目撃しただけでも驚くのに、被害者が頭の上から降ってきたんだからな。
警察にも色々訊かれたのか？」

「ええ、まあ少しは。今日は仕事が終わったら、もう一度調書を取るために警察に行くことになっています」

人の良さそうな笑顔で大柄な社長は、うむ、と腕を組むと大きく息をついた。

「明日から頑張ってもらわないといかんからな。
今日はとりあえず顔合わせの挨拶だけして帰れ。
言っとくけど明日からの遅刻はこんなに優しいわけにはいかんぞ？
今日は特別だからな」

社長の温かい言葉に感謝の意と尊敬の念を込めて、翔は深々と頭を下げた。

社員が５名の小さな会社だが、アットホームな雰囲気で社員は皆、翔を温かく迎え入れてくれた。

顔合わせと簡単な業務説明を受けた後、翔はその足で警察へと向かった。