けたたましく鳴る携帯の着信音が頭に響く。
「うるさいな……」
目蓋を開けると、寝室ではなくリビングの天井が目に入る。
どうやら昨日はそのままソファーで寝てしまったらしい。
咳をしてソファーから重い身体を起こし、テーブルの上の携帯を取る。
『あ、出た。もしもし莉央?無断欠勤?』
しゃがれ声の学の言葉に昨日外すのを忘れた腕時計を見る。
いつもならとっくに事務所に着いている時間だ。
真っ先に頭に浮かんだのは、ここ1週間電車内で一緒に過ごすようになった柚季ちゃんの顔。
「やばいっ……!ケホっ……」
電話を切り、咳が出るのにも構わず家を出る。