「今日から一ヶ月、ここで働くことになった緋上ジョーくんだ」

 ズラリと横一列に並んだ皆さんの前で、店長さんが僕を紹介してくれます。

「緋上ジョーです。よろしくお願いします!」

 キチンと頭を下げて挨拶をすると、三人の同僚となる皆さんが拍手で迎えてくださった。

 皆さん男性の方で、海上(かいじょう)さん、早沱(はやた)さん、北郷(ほんごう)さんと仰る方々らしい。
 不思議とヒーロー心を揺さぶるお名前だ。

「この時間帯のシフトはもう一人、入ってるんだが……」

 そう言いながら店長さんは腕時計を見ながら苛立っているご様子。

 確かに休日の昼前。そしてこの店はファミリーレストラン。

 今はお客さんもチラホラしかいないから僕のために店長さんが顔合わせのための時間を皆さんのお仕事を止めてまで作ってくれたが、もうすぐそんな余裕もなくなる。

「仕方ない、彼女の紹介は後回しにして皆は仕事に戻ってく──」

「すみません、おはようございます!」

 店長さんが諦めかけたその時、裏口の戸が慌ただしく開き、そこから焦りに満ちた女の人の声が聞こえてきた。皆さんの目が一斉にそちらに集まります。

「おぉ、来たか。遅いぞ!丁度、新しく入ったアルバイトの紹介をしていたところだ」

「緋上ジョーです。どうぞ、よろしくお願いします」

 先程と同じように軽く頭を下げて挨拶。

 その女の人は、わざわざ乱れた息を整えてまで僕に笑顔を見せてくれた。

「赤坂友恵です。こちらこそ、よろしくお願いします!」

 そう挨拶してくれて、手まで差し伸べてくれた。

 拒む理由もないので僕は握手に応じました。

 僕が笑っているせいか、赤坂さんがますます笑顔になりました。

 大学生くらいでしょうか?

 思わず見とれてしまいそうになるくらい艶やかな黒髪が肩のラインまで伸びています。