ある晴れた日曜日の朝。

 甲斐浜 仙太の作った美味しい朝食をたっぷり堪能した天羽空兎は珍しく自室の机に向かっていた。

 しかも、彼女が今、目の前で開いているのは一冊のノートとその横には参考書である。

 さらに付け加えるならば、それは彼女が最も苦手して、常日頃「人類の敵!」として豪語する科目、


 そう、数学なのである。


 明日どころか、今にも豪雨が降りそうなこの世にも珍しい光景にはもちろん理由がある。

 それは、昨日の土曜のことだ。

「次の時間、つまりは月曜の数学の時間にテストするんで、夜露死苦(ヨロシク)!」

 という、数学教諭の言葉によりこの光景が生まれることとなった。しかも三十点未満には次の日曜日に補習というおまけ付である。

 空兎にとって三十点以上の点数は、果てしなく遠く、過酷なものなのだ。

 そう、三蔵法師が天竺にありがたいお経を取りにいくよりも、勇者が伝説の剣を手にするよりも果てしなく遠いもの・・・・・・

 勉強を開始して十分。

 空兎の脳が早くもオーバーヒートを起こした。

「無理ーーーっ! 糖分プリーーーーズ!!」

 絶叫が部屋どころか甲斐浜家中に響き渡る。居候の身でありながら遠慮の欠片もない。

 数学という文字がまるで怪物か何かに見えるのか、頭を抱えて目を大きく見開く空兎。

 好敵手の眼差しではなく、未知なる魔物と遭遇したような恐怖に怯える目となる。

「はぁ、はぁ、ダメだ・・・・・・こんなのに勝てるわけないよぉ」

 まだ参考書の一ページを開いた状態、ノートには何も書いていない状態なのに弱音を吐きだした空兎はがっくりと肩を落とす。

 そして、壁の向こうの隣の部屋を凝視する。

「こうなったら・・・・・・」

 思い立ったらすぐ行動に出るのが空兎のバイタリティ。

 一目散に部屋を出て隣の部屋にいる従兄を訪ねる。