「さっみーなぁ・・・。」

俺は、冷えた手をこすり合わせ、何とか暖めようとがんばった。
冬は別に嫌いじゃない。むしろ好きだ。この空気が透き通っていて、遠くで鳥の声が高く聞こえる、そんな透明感のある冬の朝は、なんだかわくわくする。

ーーーいや、わくわくするのは、透き通った空気のおかげじゃない。



アイツを待つときは、嫌でもわくわくする。
アイツは、よく寝坊するし、勉強は中の下だし、いっつもそわそわしてて落ち着きがない、そんな奴だけどそこがまたかわいくて、なででやりたくなる、そんな・・・


「よっ」

「あ、おはよ!瞬也!!」

白いAラインのコート、白いもこもこのマフラー、下からのぞく短めのグリーンのチェックスカート。

高校生、今風に言うとJKなのだが、つけまつげもチークもしていない、けれども超かわいい、笑顔が似合う、

ーーーーーーーーーー俺の彼女。



「ごめん瞬也、待ったよね。さむかったしょ?」
「いや、大丈夫。それより、はやくいこーぜ」
心の中のときめきを隠しながら、歩き出す。

「はじめてだねー!」
「なにが?」
「こうやって瞬也と学校行くの!」
「ああ。」
「私の部活、朝練あったからねぇ。」
「有紗、また試合で1位だったってね?すごいよな。」
「いやいやぁ、私の出てた1500メートルが強いひといなかっただけだよ!」
有紗は、陸上部だ。夏のインターハイとか、秋の高校生大会とかで、いっつも上位入賞してる、すごい選手だ。---そのおかげで、春と夏と秋は朝練があって、一緒に朝学校へ行けなかった。
「あー、そういえばどう!?」
急に有紗が大声を出したせいで、耳がキーンとなった。
「はぁ?何が?」
「何がって・・・、ほら!!」
有紗が、自分を指差す。
きっと、新しい白いコートとマフラーのことだな。
でも・・・、
「何だよ?」
「・・・もう!!」
「えー、なにー?まじでわかんねぇ!!」
こうやって有紗をいじるのは、楽しい。ってか、有紗がかわいい。

「もういいよ!もう、これ、ぜったい有紗らしくないって友達に言われる!!」

有紗は、陸上部なため、スポーティーなファッションを好んでいる。しかし、俺が冗談で、『白いコートとマフラーのほうが俺好きー。ありさもそうゆうの着ろよ』って言ったら、本当に買って着てくれた。

すねてる有紗を横目でちらりと見て、

「似合ってる。」

とだけ言って、有紗の手を握った。