「ねぇ、大樹くん」
「……何、どした?」
いいかな?
「言っても……いい?」
そう小さな声でつぶやくと、更に強く抱きしめられた。
抱きしめられるのは、好きだ。
だけどそれは、相手が大樹くんだから好きなの。
大樹くんが、あたしの右頬にすり寄る。
顔に当たる大樹くんの柔らかい髪が少しくすぐったい。
あたしが思い出したことと、大樹くんの思い出は違うかもしれない。
だけど、戻れるように話すね。
「“お願いがあるの”」
あの日の言葉の一部を、ゆっくりと大樹くんに告げた。
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