「どうせ……何も覚えてないんだろ」
「……え」
今なんて言ったの?
大樹くんはもうあたしの話を聞かないとでも言うように背を向けた。
「大樹くんなんて、嫌い」
これは、あたしが初めて、大樹くんに示した感情だった。
「婚約……やめたければやめればいい」
その言葉を聞いてあたしは、走って階段を上り部屋へ滑り込んだ。
やめたければって、大樹くんはやめたいのかな?
……あたしは、この時自分のことだけ考えてた。
大樹くんの気持ちの奥底を考えなかった。
あたしは、知らなかった。
リビングで大樹くんが……辛そうな顔をしていることに。

