「直希ー!」

扉の方で、他クラスの女の子が叫んでいる。
考え込んでいた私は、自分が呼ばれたわけでもないのにはっと顔を上げる。
その声を聞いた直希は、ゆっくりと顔を上げ、笑ってないみたいな笑顔を浮かべながら扉に向かう。

そういえば、直希の今の彼女ってあの子なんだっけ。
名前なんだっけな・・・さ、さ、さ、
あ、斉藤?違うな。それ前のだ。

でも、やっぱりあの反応は、本気じゃないっぽい・・・。

キーンコーンカーンコーン・・・

「あ、予鈴・・・」

次はなんだっけ、と考えているうちに、そうだ、現国だ、と思い出す。

「あー次なんだっけ・・・」

気だるそうに呟いたのは、後ろの席の瀬野拓海くん。

「現国!」

元気よくそう答えると、拓海くんは私をチラリとみて、
「さんきゅー」
と言った。

拓海くんは、名簿順の席で並んでいた最初の席順で、私の後ろにいた人だ。
直希よりも少し体は大きけど、目元はすごく優しそうで、人当たりのいい笑顔の拓海くんとは、すんなり仲良くなれた。

「ベリーの授業っておもしろいよね」
「わかるー!あの笑いを誘う話し方!」

ベリーってのは、現国の教科担任のあだ名。
由来は、近づくとストロベリーの香水の匂いがすることから。
本名は、沢井 真紀。
この学校にいる先生の中では、ダントツで人気がある。

女の子らしい柔らかくて長い髪。
モデルさんとかにも劣らない、整った顔。
やんわりとした話し方や正義感の強いところも、人気の理由のひとつ。

でも何より、授業が面白い。
普通なら女子に憎まれるけど、授業が面白いことから絶大な支持を受けている。