太田くんが藤岡に連行されると、藤岡に指示された日直は即座に黒板の悪戯を消した。
藤岡の姿が消えた途端、みんなは一斉に深い息を吐きながら床に座り込む。

「こっっ………わ!」
「俺まじで死を覚悟した…」
「藤岡って絶っ対やばい人たちと連んでるよね…」
「つか太田、さあ…」

口々に喋り始めるのをよそに、私はまだ硬直している直希を見上げる。

魂が消えた抜け殻のように、硬く口を結んで一点をぼうっと見つめている。
見つめて、いるのだろうか。
それが恐怖によるものでは無いことは、一目瞭然だった。

「…大丈夫?」

不安になって声をかけたが、彼からの反応は無かった。


え…無視、じゃないよね?

続いて、ねえ、と体を揺すると、はっと目を覚ましたように、驚いた顔をして私を見る。

「あ…ごめん…」

焦り、のような。
驚き、とも違う…?
不安、なのかもしれない。

だけど不器用に笑顔を添える。

直希のこんな複雑な表情は初めて見た。