「こんな質の悪ぃ悪戯してんじゃねえよ餓鬼」
そう言って凄む姿は夜の怖いお兄さんそのものだ。
獲物を見つけた獣のような目つきで私たちを睨む。
誰も微動だにしようとしない。
「で?誰がやったんだよあれは」
彼は妖艶さをも匂わせる危険な笑顔で舌なめずりをした。
と、クラス中の人が一斉に目を背ける。
目を合わせたら殺られる。全員の顔にそう書いてあった。かく言う私もすでに半泣きだった。
「…怒んないからさあ?」
打って変わって楽しそうに笑う。
怯える私たちを見て楽しんでいる。
普通なら神経を逆なでしているところだが、全員石で固められたかのように動かない。動けない。
と。
「…太田」
名指しで呼ばれたのはクラスでもあまり目立たない存在の太田くん。
みんなが一斉に目を動かして太田くんと藤岡を見比べる。
太田くんは表情を硬く強張らせながら、蚊の鳴くような声ではい、と返事をし…
「聞こえねえよ太田ァ!!」
た。
背筋が凍るような冷や汗がだらだらと背中を流れる。
きっと太田くんはそれ以上に恐怖なんだろう、今にも倒れそうな真っ青な顔をしている。
あぁ……ご愁傷様……
彼が犯人かは別として、
再びクラス全員の心の声が一致した。

