心臓が激しく暴れ始める。
慎重に声が下方向に視線を移すと、背の高い女の子のシルエットが見えた。
先生じゃない?
私はほっと胸を撫で下ろして立ち上がった。
後ろで拓海くんが、シルエットを不思議そうな目で見ている。
「誰?」
「・・・あれ?知夏?」
拓海くんが目を丸くしながら言った。
シルエットが反応する。
「ちなつ?」
私の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
あっれ・・・知夏・・・?
「あ・・・拓海?」
「やっぱり!知夏だ」
嬉々とした声を上げて女の子に駆け寄る。
すると、角度が変わって影が消え、顔が見えた。
肩辺りまである黒髪が緩やかになびく。
あ・・・・あ!
思い出した!
「何で?今授業中じゃん」
「そっちこそ。何してるの?」
「救急箱とりにきた」
知夏と呼ばれた女の子は、顔の隣で救急箱を揺らす。
私は2人の親しげな会話を扉にもたれながら聞いていた。
そうだそうだ。
私、この子を知ってる。
穂坂知夏。
確か私たちと同じ年に、首席入学した子だ。
入学式で何か話しているのを聞いたような・・・。
てゆか、そんな天才と拓海くんって・・・次元違いすぎるでしょ。
共通点・・・?
「そだ、家康元気?」
い、家康?何その大層な名前。
「あ、今朝家光と喧嘩しててさ、巻き込まれた」
「またか、君ら」
「は?あたしも!?」
えーと・・・人間じゃ、無いよね。ペット?
盛り上がる2人を横目に、猫かなー犬かなーなんてぽつんと考える。
遠くで明るい笑い声がした。
私はそれを、どうしようかと眺める。
ちょっとだけ、疎外感。
私ここにいていいの?
「あれ?拓海、友達いるんじゃん」
突然声をかけられ、はっと顔を上げる。

