きみのうしろ姿


弱々しい声で呟く。
自然と腕に力が入る。

拓海くんはしばらく固まったあと、私の頭にぽんと手を置いた。
もう諦めることにしたらしい。

・・・やさしい。
ちょっと申し訳ないけど。
静かに目を閉じて、頭の整理をする。

「こわかった・・・」

私は深呼吸しながら言った。

フラッシュバックにあんなに怯えるなんて、自分でもびっくりした。
急に暗闇に放り込まれたみたいだった。
どこを見ても恐怖しかない。

拓海くんに助けられたのは、これで2回目だっけ・・・。

「・・・もう平気。ありがと」
「いーえ」

体が離れると、代わりに目が合う。
そういえば、自分でしといてなんだけど急に抱きつくって変態みたいだな私。

「・・・沙姫ちゃんってみんなにこんなことしてるの?」

うわっ!見透かされた!?
図星を指されてどきりとする。

「し・・・してないし!」
「いやいや、顔赤いよ?」
「拓海くんが変なこと言うからだよ!!」

もう行くよ、と立ち上がる。
拓海くんも笑いながら立ち上がった。

「どこ行きたい?」
「えーっとね・・・誰もいないとこがいいかな」
「じゃあ、保健室にでも行きますか?」

保健室は、この階段を1階まで下ってすぐそばにあって、見つからずに行くなら確かに都合がいい。

というわけで、私たちはいそいそと階段を下り、1階に降り立った。
保健室の扉にある窓から中の様子を覗く。


「誰かいる?」
「うーんいない?」

私は首を傾げる。

「とりあえず入ってみよっか」

拓海くんの言葉に黙ってうなずく。
そっと扉を開くと、からからと音が立つ。
スリルと緊張感があいまって心臓が高鳴る。

私たちは屈んだまま中に入った。

「え?」

その時、どこかで聞き覚えのあるような声が響いた。
ぎくっと動きを止める。

誰かいる・・・!