「ちょっ速!」
「どこ行こう!?」
すぐ後ろであわてて追ってくる拓海くんを振り返って言う。
だけどその言葉は続かなかった。
続けれなかった。
拓海くんの表情に、尋常じゃないほど焦りが滲み出ていたから。
そして、拓海くんはらしくなく声を荒げた。
「おい馬鹿!前!!」
「え・・・わあっ!!」
突然視界がぐらついて、全てが止まった世界に放り込まれたみたいで。私はこの感じを、前にもどこかで経験している。そう思った。
階段を踏み外した私は、バランスを崩してされるがままで、どうすることもできずにぎゅっと目を瞑った。
どこからか拓海くんの声が聞こえたけど、気が動転しているせいか何を言っているのかはわからなかった。
上も下もわからない状態で、一回転くらいしたんじゃないかな。
どさっと物が落ちる音が聞こえた。
なんて、他人事みたいに考える。
「ん・・・?」
硬く閉じていた目を開けると、開きっぱなしの屋上の扉が見えた。
光が周りを照らしている。
仰向けに倒れているのか、とだんだん理解してきた。
あれ?
なんで、
痛みがないの?
ぼんやりとそう考えた瞬間、全身がひやりと震えた。
寒気のような予感。
とてつもなく、嫌な予感。
まただ。また痛みがない!!
私はあわてて体を起こす。
案の定、そこには私の下敷きになった拓海くんが、うつ伏せで倒れていた。
ドクン、と心臓が強く波打つ。
「拓海くん!!」
私は悲鳴にも似た叫び声を上げた。
ベリーの頭から流れた血が、鮮明に蘇る。
「や・・・やだあ!!拓海くん!!」
『何してんだよ!』
直希の、声。
私は身震いをした
「ごめんなさい・・・っ私が、また・・・私が!!」
自分を殴りたくなった。
ベリーの次は、拓海くん。
2回も同じ間違いをして・・・!!
我慢できずに溢れる涙。
それすら今は、怒りの対象。
私に、泣く権利なんかない!!
泣くな。泣いたってどうにもできない!
「いや、いや!ごめんなさい・・・っ!」

