きみのうしろ姿


私、何か変なこと言った?

首をかしげていると、拓海くんは私に一歩近づいて、腕を取った。

「嘘。腕、平気?」
「!」

バレた・・・?
って、嘘ついたつもりなんかなかったんだけど。
ただ、ほんのすこーしだけ、痛むから・・・。

私はさっと腕を引いた。

「・・・鋭いんだね。意外」
「わかりやすいんだよ、沙姫ちゃんは」

さっきもさ、と言われ、どきりと体が反応した。
朝のことを思い出す。

「ははは・・・私不器用だから・・・昨日の、今日で、さ・・・」

自分でもわかるくらい引きつった笑顔を見られたくなくて俯くと、今度は何かがぐっとこみ上げてきた。
泣くな。泣くなよ・・・。

「さっきは・・・っ・・・・ありがとね。助かった」
「・・・好きなんだ?杉岡直希のこと」
「振られた。昨日」

ベリーがすきだって。
溢れそうになる言葉を飲み込んだ。

だめ・・・言っちゃだめ・・・。

見透かされるのを避けるために、空を仰いで気丈に笑って見せた。
どこまでも真っ青な空で、白い雲がのんきに流れていく。

「・・・慰めるために一緒に来てくれたの?」

少し前に出てゆっくりと息を吸うと、葉同士が擦れる音が聞こえた。
後ろにいる拓海くんの表情は見えない。

これ、自暴自棄ってやつ?
なんか自分で自分が情けなくなってくるよ。
他人巻き込んでまで、心の傷を癒そうなんて。
ずるいな、私。

「沙姫ちゃん」
「何?」

振り返ると、拓海くんは制服のポケットに両手を突っ込み、遥か彼方の山を眺めるように遠い目をしながら、いつになく物悲しさを持ち併せた雰囲気でたそがれていた。
その急すぎる振る舞いの変化に戸惑っていると、彼は突然ふっと苦笑する。

なっ・・・なんだ!?
なんか始まってんのかこれ!?

「沙姫ちゃん・・・俺」

いつもよりずっと真剣なまなざしを受け、開きかけた口を閉じる。

何か相談・・・?

張り詰めた空気の中で、固唾を呑んで次の言葉をじっと待つ。