きみのうしろ姿


「ははっまじ!?俺も見たかった」

そういいながら拓海くんは机にかばんを置く。
私はそれを横目で見つつ、手の中のケータイの眺める。

「・・・私・・・詩人なろっかな」
「「っ!?」」

なんとなく呟いた言葉が聞こえたらしく、前後にいた二人が身を乗り出した。

「んなっなんで!?何かあったの!?」
「ちょっ待って待って、いったん落ちつこ、だから早まるな!!」
「いやお前らが落ち着け?」
「沙姫ちゃんっまじでそれむぼ」
「冗談だよ!気づけよ!つか今無謀って言おうとした!?」

全力でつっこむと、なんだ冗談かぁ、と2人は安堵の息を漏らした。
きみたち・・・それ天然でやってんの?故意だよね?・・・故意だと信じたい。

「はあー。ユキさんみたいになりたいよぉ」
「「・・・」」
「反応してよ!」

2人はいたずらっぽく笑った。
これからずっとこの調子でいじられるのか、とおもうと気が遠くなった。

「なによ!ただ、ユキさんってどんな人なんだろうなって思っただけだし!」
「そーね。ユキさんって男なんでしょ?」
「あーそれ、前言ってた小説サイトの・・・」
「そーそー」

どうやら今まで話が読めていなかったらしい拓海くんが、以前話した話を思い出したのか手を叩いて言った。

「でもその話の主人公女の子だよね」

拓海くんは私のケータイの液晶画面を覗き込みながら言う。

「うーん、合計したら男子のほうが多いんじゃないかなぁ?・・・うん」

私は視線を宙に浮かせながら、今まで読んできた話を思い返す。
ほとんどファンタジーものだったから、主人公は大抵男の子のはず。
っていうか今思い返すと、結構読んでるな私・・・なっつかしーぃ。
そういえば前々回のユキさんのは確か・・・。

「おーい?おーいおーい」
「沙姫ちゃーん?」
「ふふふ・・・ユキさーん・・・」
「・・・やべえこいつユキユキ症候群だ」
「はは、なにそれこわい」

2人の会話を聞き流しながら、もう現実逃避しようか、とか血迷ったことを考え始めたとき、私は視界の隅に移った人影を見て目を剥いた。

ーー!

心拍数が一気に加速する。
だけど、確実に普通じゃない。
体が拒んでる。

私はとっさにぱっと視線を机に落とした。

肩の力が抜けない。
ぎゅっと握る手が微かに震えた。