――ベランダで隣の部屋との間の仕切りに寄り掛かり、ため息をついた時。


「…またケンカしたのか。次は何が原因だ?」

「!?」


聞こえてくるはずのない声に、私はビクッと身体を震わせて、仕切りの方を振り向く。

誰っ!?


「ほんと、いい加減にしろよ。ケンカして怒鳴り声と泣き声が聞こえたかと思えば、数日後にはあんたの甘ったるい鳴き声。聞かされる身にもなれよ」


仕切りがあってその姿は見ることはできないけど、そこにいるのは隣人だろう。

恐ろしく低いテナーボイスだ。

ていうか…待って。

彼氏とのやり取りを聞かれてる!?


「盗み聞き…っ」

「人聞きのわりぃこと言うな。あんたの声がでけぇんだよ。聞きたくなくても聞こえてくる。…まぁ、あれだけ感情のままに怒って泣いて、感情のままに喘いでたら、周りなんてどうでもいいんだろうけど」

「~っ!」


顔が一気に熱くなる。

アノ声まで聞かれてるとか…

恥ずかしすぎるどころじゃない…!


「――ただ。興味はある」

「っ」

「あんたがどんな女なのかって。いつか、あんたの顔拝める日を楽しみにしてるよ」


その言葉を最後に、気配が消える。

顔も知らない隣人。

いつか、顔を合わせる日は来るのだろうか――。

…いや、来なくていい…!