私は視界に入ってきたある人物の存在に、はっと目を向ける。


「――サヤ。おはよ」

「あ、うん。おはよー」


ねみぃな~、と言いながら隣に座るのは私の彼氏。

学部が違う彼氏と同じ授業を取っているのはこのコマだけだから、いつも一緒に授業を受けている。


…そして、彼氏はさっきネコ王子に声を掛けた張本人。

ネコ王子は彼氏の高校の時の部活の後輩らしい。

っていうのも、最近たまたまタイミングよく彼氏が私に教えてくれたこと。

『あいつ、超ボーッとしてんのに、サッカーは上手いんだよ!』

…って。

サッカーをしてる姿なんて普段のネコ王子からは想像しにくいけど、ネコが毛糸のボールを追いかける姿を頭に思い浮かべると、なるほど、と妙に納得してしまった。


「あのさ。今日の空き時間、一緒に過ごそうって言ってたんだけど、急にバイト入ったんだ。授業終わったらすぐ行かないといけなくて。一人にさせてごめんな?」

「あ、そうなの?ううん、大丈夫だよ。私なら適当に時間潰すから。バイト頑張ってね」

「ほんとごめんな?」

「ううん」


時間があれば一緒に過ごそうとしてくれる彼氏に、私は感謝してもしきれない。

一人ぼっちだった私を救ってくれた存在だから――。


チャイムがなり、それと同時にむくりとネコ王子が顔を上げたのが目に入る。

ぼーっと遠くを見つめるような表情に、私は心の中でこっそりと笑った。