「少し休憩しましょうか」


カタカタと無心でミシンをかけていると、先生が声を掛けてきた。

私はミシンを止める。


「さすが器用ですね、椎名さんは。上手にできてますし、進めるのが早くて感心します」

「ありがとうございます!」


誉められた!

ただの生徒へのお世辞だったとしても、憧れの先生に誉められるなんて嬉しすぎる。


「そのシャツ、どなたに作ってるんですか?男性用でしょう?」

「あ、えと…彼氏に、と思ってます」

「そうなんですか…それは喜ばれるでしょうね」

「……そう、だといいですね」

「…椎名さん?」

「…」


シャツを作るとなっていて、最初に浮かんだのは彼氏の顔だった。

私が作ったシャツを着てもらえたら、どんなに嬉しいだろうと。

でも…

私の彼氏は受け取ってはくれても、きっと喜ぶ顔は見せてくれない。

今まで何度か手作りのものをプレゼントしたことがあるけど、一度も『ありがとう』を言ってもらえたことはないから。

…嫌がる雰囲気はないし、照れ隠しだよ、と私はいつも言い聞かせる。

でも、彼はもしかしたら私のことはそんなに好きじゃないのかな、なんて思うことも多くて。

私は彼のことが好きだから、やめることはできないんだけど…。


「…椎名さんは不器用なんですね」

「え?…器用、って言われる方が多いですけど…」


ふいに出てきた言葉に私は首を傾げる。

昔から何でも器用にできる方で、よく誉められてた。

今作ってるシャツだって、うまく作れてると思うんだけど…。

先生だって、さっき誉めてくれたでしょう?