「…小夜」

「っ」


初対面でいきなり呼び捨てなんて、普段であれば礼儀のない男、なんて思ってしまうけど…

この男にならそう呼ばれてもいい、と思ってしまう。

…この孤独を身に纏う優しい瞳を持つ男になら。


スル、と腰に手を回され、触れる距離まで引き寄せられた。

びくと私の身体は反応してしまう。

その手はしなやかで壊れ物を触るように柔らかなものなのに、電気が走った感覚がした。


「…歳、と呼んでくれないか?」

「え…っ!?」

「今だけ…頼む」


懇願するような目に私は逆らうことなんてできなかった。

この男の頼みを聞き入れたいと思った。

父に聞こえないように声に出す。


「…歳様」

「――あぁ。小夜」

「!」


土方様の顔に浮かんだ笑顔はとても明るいもので。嬉しそうで。

人懐っこい笑顔だと思った。

完全に私の心が奪われた瞬間だった。


「では、お二方。しばし」


父の声と共に始まる撮影。

隣に土方様の熱を感じながらの撮影は長いようで短く感じた。



――もしかしたら、土方様に囚われてしまった私の心も写真に写ってしまっていたかもしれない。

でも、私がその写真を見ることはなかった――。