「あれ?」


私は足を止める。

今、温泉マラソンの最中だ。

息を整えつつ後ろを振り向くけど、傍にいると思っていたタケルの姿はなかった。

いつの間にかタケルを置いたまま、走ってしまっていたようだ。


「やっぱ遅いんじゃん…」


はぁ、と息をつく。

仕方ない、待っておこう。

せっかく二人で旅行に来たのに、一人ってのも空しいし。


私は道から少し入った木の陰に腰をかけ、タオルで汗を拭く。


ピューヒョロロー

ピーピー


鳥のさえずりに耳を傾ける。

…結構、のんびりもいいかも。

タケルがいたら、きっともっと楽しいのに……なんて思えるのは、ツマラナイとは思いながらも私がタケルのことを好きだという証なんだと思う。

あーあ。早くタケル来ないかなぁ…。


美味しい空気を欲して息を吸い込んだ時、


「っ!?」


突然後ろから塞がれる口。


「ん~っ!」


私は必死に体を動かして、その手から逃れようとするけど、力が強くてできない。


なに、何っ!?

誰!?

怖い…!