―――大木に寄り掛かるのは、鮮血に濡れた真っ黒な存在。

漆黒の羽根をも濡らすほどの血。

背中に大きな傷が見える。

何があったんだろうか。

さすがに悪魔と言えど、益々放ってはおけなくなって声をかけた。


「あ、あの」

「…!」


悪魔がアタシに顔を向けた。

…さすが悪魔、美しすぎる顔だ。

でも、苦しそうにその顔は歪められ、息も荒い。


「大丈…」

「…悪いが、魂なら喰った」

「!?何てことを…!」

「……っ、仕方、なかった」

「――っ」

「――自然の摂理を破ったのは悪いと思うが…、この体に魂が必要だったんだ…っ。どんなに疎まれる存在だとしても、消えるわけにはいかないからな…ぅっ、」


背中の傷がかなり深いらしく、次から次へと血が流れる。

魂を手に入れる前は、きっと、もっと酷かったに違いない――。

魂のお陰で、消えることなく、姿を保っていられるんだろう。


傷痕に悪魔の手が触れそうになり、アタシは咄嗟にその手を取った。


「触っちゃダメ!」

「…!お前こそ、俺に触れたら」

「っ!く…っ」


痛い…!

悪魔に触れた部分から拡がる、じんじんと焼けるような痛み。

…この悪魔、邪気が強すぎる…!