『無明の果て』

バッグの中で携帯が鳴っている。


「もしもし麗ちゃん。これから行くから。」

「一行、連れて行ってほしい所があるの。」

「どこ?」


「彼女が歌っているお店。」



一行は、わかったと静かに言った。


身の丈に合った生き方をすることは、挑戦しない事とは違うと、ずっと思って来た。


プライドを持って信じて来た。



でも一行、弱音は吐いていいんだよ。


他の方法があるんだと、立ち止まって、うずくまって、天を仰いでも、人生は簡単に見捨てる事はないはずだから。


そして遠くにいても、私を認めてくれた夫を、私は一時だって忘れる事はない。



ゆっくりドアの開く音がした。


「あっ、キャリアウーマンだ。」


「人をスーパーマンみたいに。
ただいま。」



「おかえり。」



笑っているのに、涙がこぼれるのはなぜ?


旅立つあの日、涼に見せたそれとは違う涙は、暖かく此の上ない幸せなものだった。


手をつないで歩く道は、一歩一歩確実にその店へ向かっている。


「園さんだったよね。」

「北原 園」


涼の志が決断させたというその歌声を、どうしても聞きたいと思った。


一行が作ったというその曲を聞かずに、アメリカへ戻るわけにはいかなかった。



「M」のドアを開ける手が少し震えていたけど、中に入るとすぐにその歌声は、身体を包み込むほどの迫力を放った。



”誰も立ち止まる時がある。

そんな時もある。

愛されているはずなのに…

愛しているはずなのに…“



歌い終わって、園は私達の方を向き、私にゆっくり礼をした。



私は何度も拍手をし、そしてまたゆっくり頭を下げた。



涼が夢を追い、園が魂をぶつけ、その中で一行は私の存在とそれを比べたのかもしれない。



「楽園」と云う真実を探して…