『無明の果て』

海を越えて、遠い国で、私に与えられたものをこの手につかむ時が迫り来るのを、身体で感じている。


支えてくれる人達と、信じてくれる仲間達が、私の信念と、そして夢へ続く道しるべを拓いてくれたことを、忘れてはならない。


そう、この胸に誓っている。



転勤してから一行とは会えずにいる。



限りのある時間は、こんな気持ちも知らずに、容赦なく私を追いかけてくる。



一行が大丈夫だと言った男気を、若いというだけで、疑う事など有り得ないけれど、もし、真実の言葉を隠しているとしたなら、旅立つ前に聞いておかなくてはならないだろうと覚悟はしている。



自分で決断したことなのに、私の気持ちを置き去りにし、焦りばかりが大きくなって行く。


そして、不安という、とてつもない威圧的な一日一日が、私を疲れさせていた。



「一行、週末に時間ある?
少し身体も休めたいし、話たい事もあるし。」



「うん。
そうだね。
俺も考えてたよ。
久しぶりにゆっくり美味しいものでも食べようよ。



麗ちゃん、こっちへこれる?

土曜、日曜空けておいてよ。

ちょっと連れて行きたい所があるんだ。

日曜の最終で戻るように予定しておいて。

こっちでゆっくりしよう。

男の料理、用意しておくから。

久しぶりに、パスタでも作りますか。」



「うん。
少しここから離れたいわ。

あと何度大阪へ行けるか分からないし、土曜は早く出るようにするね。」


一緒にいた頃が、もうずいぶん前の事のように、はじめからまた、私は恋をしているみたいだ。


「涼に知らせておいたよ。
驚いてたけど、麗ちゃんなら行くと思うって。

二人とも慌ただしいなぁって、笑ってたよ。

麗ちゃん、向こうに行く前に、涼に会ってもいいんだよ。」


「えっ、何?
会わないわよ。」


「違うよ。

麗ちゃんがこっちに戻って来た時、俺と涼は今まで通りの付き合いなんだから、涼とだってそうしておいてほいしと思っただけ。

なに慌てちゃってんの。」


「慌ててた?」